蝉氷坊のブログ

 文殊会通信(読書、映画、美術、酒をめぐる片言隻句)ぶらぶらあるき(県内篇・県外篇)梵夫の時間(おりおりの日誌)

文殊会通信第39号 2015年12月1日号

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海*堂  消息

 

●最近読んだ本

『写真帖 仙台の記憶 100万都市の原風景』/写真・小野幹、高橋こうけん 文・仙台市都市生活誌研究会/無明舎出版/2003.12 2刷2013.12/★★★

 

 この本は、仙台市の情報誌「りらく」に連載されたものが元になっているとのこと。家内の昔からの友人が、仙台市都市生活誌研究会の中の1人で、以前に送ってきてくれた。寝る前の睡眠薬本として数ページずつ読んでいた。

 構成は見開きで1項目。左ページに昭和20年代末からの古い写真、右ページにはその写真の場所解きや当時を知る人への取材など。その右下に小さく同じ場所の現在の写真。昭和30年前後が中心で、40年代や50年代のものもある。

 昭和48年から昭和60年まで、仙台暮らしをしていたので、その頃の写真は掲載が少ないものの数葉あって、三畳間に間借り生活をしていた時の町が載っていた。なぜこんな街角を撮ったのだろうと思わないでもないような写真もあり、これもその一枚ではあるが、その場所を知っている者にとっては大変に興味深く、現在の変貌ぶりに驚いたり、懐かしくなったり。当時仙台市は人口60万といわれ、市電が走っていたが、それが廃止となって長い地下鉄工事が始まり、昔の八戸駅を大きくしただけのような仮駅舎も長く使われ、それが新幹線が通って巨大な近代的駅舎となって生まれ変わって都会の顔を現し始めた。仙台駅の東口側は、当時雑草が茂る空き地が多く、その中に戦後作られたであろうバラックのような建物が点在し、中には赤提灯が灯っている家もあったりして怪しげな場所であった。それが今では道路は拡幅され大きなビルが建ち並んでいる。政令都市となって100万もの人口を抱えるまでになり、仙台を離れるときにはまだ南北線が開通していなかった地下鉄も東西線が今月には開業予定。仙台を離れてから30年。訪れるたびに変わっていく仙台だったが、この本の昭和20年代末の写真からの変貌ぶりには、言葉がない。

 写真を撮影した小野氏と高橋氏は50年来の友人とのことで、東北の人々の暮らし、町、自然を撮ってきたようだ。様々な祭りや年中行事やイベントなどを撮影するのはよくあることだが、何でもない町の景色や人々の暮らしをスナップ写真として残したことは、撮影時意図したのかどうか分からないが、貴重な記録となっている。

 

▼今読みかけの本

『仏教思想のゼロポイント』/魚川祐司/新潮社/2015.4

 

 先月から机の上にあるのに、序文を読んでそのままの状態。

 

■これから読む(購入する)予定の本

『『正法眼蔵』全巻解読』/木村清孝/佼成出版社/2015.10

 

 つい注文してしまい、届いたら565ページの大著。いつ読めることやら。

 

 

蝉氷坊  消息

 

●最近読んだ本

 今月は朝日新聞の読書欄にあるコラムから、「書店員に聞く しみる短篇」にあった4冊の短編集から一篇ずつ。

 

1.『ジョナサンと宇宙クジラ』から「九月は三十日あった」/ロバート・F・ヤング/ハヤカワ文庫/2006.10

 

 1977年6月に出た同じハヤカワ文庫の新装版。作者はアメリカの作家で1915年生まれ、原作は1950年代に書かれたSF。

 近未来、教育はすべてテレビで行われる時代。主人公は道具屋でアンドロイドの「学校教師」を買う。妻や子どもは「学校教師」を嫌うが、主人公は一緒にいると学校時代の新学期のようなノスタルジーを覚える、というお話。タイトルの九月はアメリカでは新学期。

 

2.『山の郵便配達』から表題作/彭見明著・大木康訳/集英社文庫/2007.6

 

 著者は1953年中国湖南省生まれ、原作は中国で文学賞を受けている。映画にもなっていて、こちらも高い評価を受けた(下の映画の記事参照)。

 訳文もすばらしく、地の文といい会話といい、簡潔な表現が含蓄に富み味わい深い。

 

3.『四雁川流景』から「Aデール」/玄侑宗久/文春文庫/2013.3

 

 作者の小説を読むといつも、温泉場の旅館の窓から風景を眺める時のような穏やかな心持ちになる。仏教のことばでいうなら「諦念」「覚悟」のようなもの、それに禅宗の僧侶らしい潔さと論理性が読んでいて心地よい。

 結納を明日に控えた若い女性介護士の、入所者や職員との交流を通して知る人生の機微に揺れ動く心情を描く。

 

4.『停電の夜に』から表題作/ジュンパ・ラヒリ新潮文庫/2003.3

 

 本国では1999年にペーパーバックで、日本では2001年にハードカバーが出ている。著者はインド系のアメリカ人。

 結婚3年目の若い夫婦が住む郊外の住宅街に5日間、夜8時から一時間だけ停電するという通知が届く。妻は停電の間、暗闇の中でお互いの知らない打ち明け話をしようとを提案する。結婚前の出会ったころから今日まで少しずつすれ違ってきた二人の関係、そして「知らなかった」こととは…、というサスペンスフルなお話。

 

▼アート全般

映画『あの日のように抱きしめて』/クリスティアン・ペッツォルト監督/ドイツ/2014/フォーラム八戸/★★★★

 

 原題は「フェニックス」(不死鳥)。

 ひねらない、というひねり。映像も語り口もとても静かなのが実に心地よい。もう一度観たくなる映画。

 じわじわと盛り上げて驚愕のラストへ、というありがちなサスペンス映画とは対極の、じっと見ているといつの間にか色合いが変わっていることに気づくような、たとえば蝶が羽化するスローモーション映像のようなストーリー展開。

 男と女の物語なのに、怒声も暴力もない(親友の死は衝撃的だが)。そのことは、主人公ネリーのユダヤ人収容所での過酷な体験(具体的には示されない)こそが究極のバイオレンスをあることを暗示するだろう。戦争の悲劇を表現するのにこの映画がとった方法は、かつての恋人と再会して知る戦時下でのモラルの堕落を白日の下にさらすというものである。戦争とは、積極的に関わる者と声を上げずに沈黙する者、その中間にある者を残らず押し流す奔流なのだ、と改めて思う。

 タイトルについて。こういう邦題は実は好きなのだが、テーマと微妙にずれていてこの映画には合わないか。惜しい。

 

映画『山の郵便配達』/霍建起監督/中国/1999/YouTube/★★★★★

 

 日本公開は2001年、劇場では観ていない。WOWOWで2003年に放送されたときに観ている。

 急に思いだして観たくなりYouTubeで探すと、ベトナム語字幕のものが比較的映像がきれいだったのでこれを視聴。

 父と息子という普遍的でもあり、ある意味通俗的でもあるテーマを少ないセリフと圧倒的に美しい風景で淡々と綴った叙事詩ともいうべき傑作。人の生き方をここまで簡潔に力強く訴えてくる映画をほかに知らない。今回はベトナム語なので字幕は読めないが、まったく問題なく楽しめた。父、息子、母、老婆、少数民族の娘、登場人物は皆すばらしい。次男坊という名の飼い犬の演技(?)には誰しも感動するだろう。

 何より映像が美しい。すべてのシーンがとにかく美しいのである。このような映画にこの先いくつ遇えるだろう。

 

【編集後記】

 通算39号です。

 八戸フォーラムでやっていた若尾文子特集(10~11月)。ついにひとつも観ることができませんでした。痛にして恨。作品は『青空娘』『死の街を脱れて』『卍』『最高殊勲夫人』『華岡青洲の妻』『清作の妻』の6作。せめて『清作の妻』だけでも観たかったが…。若尾文子、妖にして艶。日本の女優として際立って特異な存在と思います。

 学生のころ好きだった丸山圭子の『黄昏めもりい』(1976年)、最近よく聴いています。ビッグヒット「どうぞこのまま」はさまざまな方がカバーしているようです。YouTubeでもいろいろ聴くことができますが、伊東ゆかりのがいい感じですね。

 

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蝉氷坊通信メンバー  蝉氷坊 1954年生   海*堂 1954年生   高*庵 1958年生   法*斎