蝉氷坊のブログ

 文殊会通信(読書、映画、美術、酒をめぐる片言隻句)ぶらぶらあるき(県内篇・県外篇)梵夫の時間(おりおりの日誌)

文殊会通信第37号 2015年10月1日

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海*堂  消息

 

●最近読んだ本

『出家的人生のすすめ』/佐々木閑集英社新書/2015.8 ★★★

 

 「律」を専門分野とする著者は、釈尊の説いた律を基に、現代に生きる人々のための指針を提示する。

 まず、著者は「釈尊の仏教」(著者の用語)と「大乗仏教」を峻別する。前者は、この宇宙に絶対者を立てず、すべては縁起という原因と結果の法則で動いていくものであり、自己の苦しみを消す唯一の方法は修行によって自分自身を変えることだとする。後者の日本を含む大乗仏教は、様々な如来や菩薩という超越者を立ててそれに祈りを捧げ、その不可思議な力によって安楽安穏の境地に導かれるとする。ここで著者は慎重に、「釈迦の仏教」と「大乗仏教」の優劣可否の判断をすることを避け、どちらの価値も認めている。

 この釈迦の仏教と科学の共通性をもとに,生きがいを追求する生き方は出家的生き方に通ずるという。工学部出身でありながら、仏教専攻に転向した著者らしく科学者の研究方法を引き合いに出して、科学も釈迦の仏教もいずれも「世の真理の発見」を目標として脇目も振らず邁進していくのであるという。しかし、その「世の真理の探求」を目的として生きることは経済生活が成り立たなくなることでもある。そこでその生活を支えるのが托鉢であり布施でありサポートする社会である。

 そのような、一般の社会的価値観とは異なる生き方を認める社会、生き方の多様性を支える社会でなければ科学においても宗教においても真理の発見には至ることはできない。

 釈尊はその制定した律によって、弟子たちのために持続可能性の高いサンガという組織を設計した設計者であり、それによって2500年もの長い間仏教が続いてきたのだという。

 律というあまりメジャーではない地味な研究から、大変おもしろい考察がなされていると思う。

 

▼これから読む(購入する)予定の本

『寺院消滅 失われる「地方」と「宗教」』/鵜飼秀徳/日経BP/2015.5

 

■酒肴全般

 純米大吟醸/稲生 華想い45/鳩政宗株式会社/十和田市 ★★★★

 

 とある会合に添菜で供され、会も終わりかけの頃に開栓。小グラスに半分飲んだだけだったが、これはうまい。大吟醸にしては、淡麗すぎず辛口に傾かず芳醇で飲みやすい。調べて驚いたのはその値段。かなりリーズナブル。

 

蝉氷坊  消息

 

●最近読んだ本

1.『西蔵漂泊 チベットに魅せられた十人の日本人』(上・下)/江本嘉伸/山と渓谷社/1993.3 ★★★

 

 19世紀から20世紀の変わろうとする明治20~30年代、多くの日本人がチベットをめざした。その目的や手段はいろいろである。しかし、世界の一等国たらんとし、東洋の盟主たらんとした明治の日本人としての義務感と優越感は(程度の差こそあれ)共通したものがあるらしく思える。

 本書で取りあげるのは、木村肥佐生、西川一三、能海寛、寺本婉雅、成田安輝、河口慧海、矢島保治郎、青木文教、多田等観、野本甚蔵。このうち、能海、寺本、河口、青木、多田は仏教者である(能海は浄土真宗大谷派、河口は黄檗宗、ほかの3人は浄土真宗本願寺派)。

 

2.『チベットと日本の百年』/日本人チベット行百年記念フォーラム実行委員会編/新宿書房/2003.3 ★★★

 

 上記の関連書。

 

3.『芝居小屋と寄席の近代 「遊芸」から「文化」へ』/倉田喜弘/岩波書店/2006.9 ★★★

 

 全13章からなり内容は多方面にわたるが、第9章では娘義太夫を取りあげている。義太夫とは裃を着けた女性が2人正座し、1人が三味線で伴奏し、もう1人が物語を語るという話芸の一種である。

 明治の中ごろから大正にかけて一世を風靡した娘義太夫(女義太夫とも)という芸能があった。十代の少女による義太夫が大変な人気を呼び、追っかけや親衛隊までいたというから現代のアイドルと変わらない。義太夫の実演は知らないが、落語のネタに多く登場する(「寝床」など)のでおおよそ想像はつく。

 さて、説経節から歌舞伎にいたるまで、親鸞ら仏教の祖師を取りあげた演目は多いが、作品の種類、上演数において日蓮が群を抜いている。この娘義太夫のレパートリーにも「日蓮記」がある。本書によれば、娘義太夫の演目の中でも演じられる機会が多かったようである。もっとも、「レパートリーは限られており、この一五段か二〇段ほどの語り物をマスターすれば渡世ができる」(本書)という実態でもあったらしい。

 日蓮上人や日蓮宗の人気は、伝説を含めてその生涯が物語性に富むことと、団扇太鼓に象徴されるようにほかの宗派にはない一種の華やぎに因るのだろう。落語でも「甲府ぃ」や「鰍沢」などがすぐに思い浮かぶ。

 

▼アート全般

1.『ジュラシック・ワールド』/コリン・トレヴォロウ監督/アメリカ/2015/TOHOシネマ下田 ★★★

 

 面白いけど二度は見なくていい、ストーリーも映像も期待通りというか、良くも悪くもその範囲内。しかし、お金とテクノロジーの徹底した注ぎ込み方にハリウッドの(つまりアメリカという国の)映画に対する傲慢とも思える自負を感じて肌寒い思いがする。太平洋戦争の回顧録などによく出てくる「(戦時中)圧倒的な物量を誇るアメリカには勝てないと思った」という内容のフレーズは、ある意味今も現実なのだろう。

 自分たちが作り出したモンスター(この映画では新種の恐竜)をコントロールできなくなる恐怖という意味では、原子力も同じだ。

 

2.『ひろしま』/関川秀雄監督/1953/WOWOW ★★★★

 

 WOWOWのオンデマンドで鑑賞。

 1953(昭和28)年、映画配給会社の上層部の判断により、公開直前に上映禁止となり今日まで劇場公開されなかった(GHQの指示によるものといわれる)。

 時代は朝鮮戦争の特需景気が経済復興を促し、核戦争の危機が現実のものとなっていた時期である。登場人物の一人が言う、勤めている鉄工所が鉄砲の弾を作り出したから会社を辞めた、というセリフはこれを踏まえたものだろう。日教組が製作した映画としては反戦反核のメッセージ色がかなり薄められている一方、被爆の実相を細かく描き込み戦争の悲惨さ残酷さを強調している。

 市民(約2万人のエキストラだとか)が原爆ドームをめざして集まる俯瞰シーンに、死んだ被爆者たちが起き上がってそれに合流するかのように歩き始めるシーンがオーバーラップするラストは圧巻で、死者への鎮魂と未来への希望が託されているのであろう。

 

3.『フレンチアルプスで起きたこと』/リューベン・オストルンド/スウェーデン/2014/八戸フォーラム ★★★

 

 若く有能で仕事人間の男性が、妻と二人の子どもと一緒に、五日間の休暇を取ってスキーのリゾートホテルに来る。2日目の朝、一家が朝食をとっていると、人工雪崩が何かの手違いでホテルを襲いレストランはパニック状態になる。そして男性は三人を置いて一目散に逃げたのだった。雪崩はホテルの直前で止まり被害はなかったものの、残りの日々妻は家族を置いて逃げた夫をひたすら責め続ける、という怖いお話。

 予告はコメディっぽい感じだったが実際はサイコ・スリラーで、鑑賞後のことを考えると夫婦や恋人同士では観ない方が賢明かも。雰囲気は『ローズマリーの赤ちゃん』(1968/R.ポランスキー監督/米)あたりのテイストに近い。

 

 

■酒肴全般

上撰 鷲の尾/株式会社わしの尾/岩手県八幡平市 ★★★

 

 名前だけは昔から知っていたが、飲む機会がなかった。

 小さな蔵のごく普通の酒なのだが、微かな、独特の辛みがありすっきりしたのどごしが心地よい。ちょっとだけベタつく感じでこれがなければさらによい。星は3つだが合格点。

 

【編集後記】

 通算37号です。

 写真は境内に咲いたアサガオ。この色のアサガオだけが、なぜか夏には咲かず曼珠沙華彼岸花)と一緒に彼岸にいっせいに咲き出しました。それも鈴なりに。10月になってもまだまだ咲いています。

 なお、蝉氷坊には寺のホームページもあります。よろしければこちらから

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蝉氷坊通信メンバー  蝉氷坊 1954年生   海*堂 1954年生   高*庵 1958年生   法*斎