蝉氷坊のブログ

 文殊会通信(読書、映画、美術、酒をめぐる片言隻句)ぶらぶらあるき(県内篇・県外篇)梵夫の時間(おりおりの日誌)

文殊会通信第35号 2015年8月1日

f:id:senhyo-bo:20150731105327j:plain

 

海*堂  消息

 

●最近読んだ本

法華経入門』/菅野博史/岩波新書/2001.9 ★★★

 

 『法華経』は諸経の王を標榜しているが、インドでは大きな流れとはならず、中国でも一時代に流布したに過ぎない。しかし日本では般若心経に次いで有名なお経であり、比叡山に学んだ鎌倉仏教の祖師たちは、当然法華経(特に鳩摩羅什訳)を学んだはずであり、後世にも大きな影響を及ぼした。。

 本書は「第一部『法華経』とは何か」では、『法華経』の成立、構成、位置づけ、日本での受容などを、「第二部『法華経』の中心思想」では、一仏乗、久遠の釈迦などをわかりやすく整理し解説している。ひととおり『法華経』を理解するには適している。

 ただし、著者の立場上、『法華経』や日蓮に関しては護教的な面が見られ批判的な視点を欠いている。

 必要があって、ネットで鳩摩羅什を検索したら、渡辺照宏著『日本の仏教』(岩波新書/1958)に言及している文章に行き当たった。この本を以前に購入していたのを思い出し、引っ張り出した。四十年たっていた。その部分に当たってみると、「中国や日本では四〇六年にクマーラジーヴァが漢訳したものを今でも読んでいるが、訳し方にも問題があり、その底本の系統にも難点があるので、必ずしもこれのみを標準と認めるわけにはいかない。 ー 中略 ー サンスクリット本について見ると、文体はきわめて粗野で単純、一見してあまり教養のない人たちの手で書かれたものであることがわかる」。さらに「彼の翻訳は厳密な意味では必ずしも信頼できない」とまで言っている。そしてその鳩摩羅什の問題とされる翻訳箇所に基づいて天台大師智は新しい教学を言い出したことを指摘したり、『法華経』そのものにも鳩摩羅什の翻訳にも大きな評価は与えていない。

 鳩摩羅什の翻訳は一般に名訳(著者は特にそうは言っていない)とされてきたはずであり、『法華経』も優れた経典として喧伝されてきたはずだったが、このような評価があったのに気付かなかったのは不覚の至り。

 

▼酒肴全般

 純米大吟醸獺祭 発泡にごり酒/旭酒造 /山口県岩国市 ★★★

 

 人が集まる予定があり、その中の一人がこの酒に興味を示していたのでネットで探してみた。価格は店によって3倍ぐらいの開きがある。その中でも以前月の桂を購入した店が最低価格の店だったので月の桂とともに注文。ただし一人月一本までに限定されている。

 栓を開けるときはシャンパンのような破裂音がして期待を盛り上げる。口にしてみると、よく言えば上品、別な言い方をすると物足りない。香りも静か、味も甘口淡泊、発泡は弱々しい。月の桂と比べるからこのような感想になるが、単体で飲めば十分うまい酒なのだと思う。

 

 

高*庵  消息

 

 しばらくお休みです。

 

 

蝉氷坊  消息

 

■最近読んだ本

1.『ドルポ ネパールヒマラヤ最奥の聖地』/大谷映芳/七賢出版/2001.8 ★★★★

 

 写真集。ドルポとはネパール西部最奥地の地方名。20世紀最後の年(西暦1900年)、河口慧海が辿ったネパールからチベットへの道無き道。イギリス軍や現地公安局の厳重な警備、ヒマラヤ連峰の峻厳な自然、苛烈な気候など多くの悪条件を克服して仏教の源流を探し求める慧海は僧侶としてだけでなく、冒険家・探検家としても傑出した人物である。この写真集は河口慧海を直接取りあげたものではないが、彼も辿ったであろう文明社会と隔絶した自然と風土を紹介する。

 

2.『紀州 木の国・根の国物語』中上健次選集(3)/小学館文庫/1999.1 ★★★★

 

 表題作『紀州…』は紀伊半島の被差別部落をめぐり、日本社会の差別と差別の構造について考え、インタビューするルポルタージュ作品。暴力、経済格差、エロスなどのキーワードを駆使して差別の構造を分析し、産業や住環境はもとより地形や景観の中にもその底流を見い出しことばにしようとする。中上健次という作家の文字の力への限りない信頼、というものを感じる。

 

3.『原節子「永遠の処女」伝説』/本地陽彦/愛育社/2006.6 ★★★

 

 映画俳優に対するイメージが長い期間にわたってこれほどまでに多くの人々に共有・共感されるのは、彼らが動く(つまり生きた)存在として記憶されるからではないか。著名な人のなかにあって、映画俳優(スター)は存在感が際立っているのである。

 著者は女優原節子のファンではなく、かつ映画俳優原節子の演技力にも懐疑的である。それでも、世にはびこる揣摩臆測やスキャンダルを極力避け、事実(関係者へのインタビューや文字として残された記録)を記すことに徹する姿勢に、映画と映画俳優への敬意を感じる。

 

●今読みかけの本

1.『夜と霧』(新訳)/V.E.フランクル著 池田香代子訳/みすず書房/2002.11

2.『チベット旅行記』/河口慧海/電子版(青空文庫

 

【編集後記】

 通算35号です。

 『世界屠畜紀行』(内澤旬子解放出版社/2007、絶版)を読もうと県立図書館に行きました。幸い貸出し中ではなく読むことができたのですが、置かれた場所にやや意外な感じがしました。書架の分類は「産業・工業」で、並べてある両隣のタイトルは『うまいぞ!シカ肉』(農山漁村文化協会)と『アメリカ産牛肉から食の安全を考える』(岩波書店)でした。作者はルポライターで、内容は主要国の家畜が解体される屠殺の現場を探訪し、ときに作業の一部を体験するというものです。タイトルや出版社から人権や思想のコーナーと思い込んでいました。ちなみに同じ出版社の『牛を屠る』(佐川光晴/2009)という本は「文学一般・ルポルタージュ」という分類です。これって…?

 写真は陸前高田市の奇跡の一本松。駐車場から少し歩けば間近で見られたのですが、周辺の大がかりな工事の雰囲気につい気が引けて遠望しただけで帰りました。

広告を非表示にする
蝉氷坊通信メンバー  蝉氷坊 1954年生   海*堂 1954年生   高*庵 1958年生   法*斎