読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

蝉氷坊のブログ

 文殊会通信(読書、映画、美術、酒をめぐる片言隻句)ぶらぶらあるき(県内篇・県外篇)梵夫の時間(おりおりの日誌)

文殊会通信第33号 2015年6月1日

f:id:senhyo-bo:20150603130336j:plain

海*堂  消息

 

●最近読んだ本

『あなたの知らない「仏教」入門』/正木晃/春秋社/2014.7 ★★★★

 

 この著者による、第1作『お坊さんのための「仏教入門」』(2013/1)、第2作『お坊さんなら知っておきたい「説法入門」』(2013/10)に続く「入門」シリーズ第3作目。本書の目的は「はじめに」に明記されているように、「ひとえに日本の伝統仏教を応援するため」とのこと。それは前2作にも共通することでもある。伝統仏教批判が厳しくなってきている現代では、心強いことであり、在家の(と思われる)研究者からの発言としては希有なことであるが、それは単なる擁護などではなく、批判を含む応援であることは認識しておかなければならない。

 第2作でもそうであったように、本書でも最新の仏教学の成果をふまえて書かれている。また、仏教と社会との関わり、明治維新以降の近代化と仏教、悟り体験、さらに最新の研究成果をもとに『法華経』『無量寿経』『般若心経』について述べらている。

 特にインド大乗仏教の誕生と展開については、従来の学説が見直しを迫られている。以前にも書いたことがあったかもしれないが、従来、大乗仏教の誕生については平川彰の在家仏教者による仏塔信仰起源説が定説となっていた。それが、アメリカのグレゴリー・ショペンが提唱した学説で根底から揺らぐ事態となっている。つまり大乗経典が誕生したとされる紀元1世紀頃には経典はあったが、大乗教団は存在していなかった。大乗教団は4世紀頃に誕生したという説である。この説の真偽は決着しているわけではないが、重要な問題提起となっているのは間違いない。

 このような学説を始め、多くの様々な興味深い「知らなかった」トピックが紹介されている。最終章では、その新知見の元となる仏教研究の参考文献が解題とともに掲載されているのが有用である。

 著者の嘆きは、近年における仏教学の進展はめざましいものなのに、その専門研究と一般読者の間をつなぐ媒体が未熟であることにあり、このことが現代仏教の停滞や衰退と関わりがあるのではと指摘しているのは思いもかけないことだった。

 科学の分野では、竹内薫のようなサイエンスライターや研究者自身が、一般向けに優しくおもしろく書いた本がこのところよく出版されるようになった。仏教の分野でも分かり易く解説した本は、現代ではひろさちやのものがあるが、これはあくまでもひろさちや流に咀嚼したものであって、ひろ自身の考え方が述べられている。それに対して本書は、もちろん人文科学の分野であるから自分自身の解釈から離れることはできないが、比較的現代の学説に基づこうとしているものだと思われる。

 入門とあるように、記述は平易で読みやすい。お坊さんなら読んでおいた方がよい本。

 

▼今読みかけの本

法華経入門』/菅野博史/岩波新書/2001.9

 

■これから読む(購入する)予定の本

『『法華経』日本語訳 』/ひろさちや佼成出版社/2015.3

 

 

高*庵  消息

 

 しばらくお休みです。

 

 

蝉氷坊  消息

 

●最近読んだ本

 読了した本はなし。

 

▼今読みかけの本

1.『映画女優若尾文子』/四方田犬彦斉藤綾子編著/みすず書房/2003.6

2.『背教者の系譜ー日本人とキリスト教ー』/武田清子/岩波新書/1973.6

3.『江藤淳大江健三郎』/小谷野敦/筑摩書房/2015.2

 

■アート全般

1.映画『イミテーション・ゲーム』/モルティン・ティルドゥム監督/2014/フォーラム八戸 ★★★★

 

 2014年のアカデミー賞脚本賞受賞作。

 映画の楽しさを久しぶりに味わった。

 現在のコンピュータ(を含むあらゆる計算機械)の計算原理を理論づけたイギリスの数学者アラン・チューリング(1912~1954)の栄光と挫折の物語。主演はベネディクト・カンバーバッチ(イギリスのBBCドラマ『SHERLOCK』のシャーロック・ホームズ役でブレーク)。

 いくらでも展開の仕方がある題材だと思うが、これだけの内容をストーリーも分かりやすく2時間未満にまとめたのはすごい。稀代の天才をエキセントリックな偉人としてより、時代(戦争)の犠牲者として矮小も誇大もなく描いた傑作だと思う。妻のキーラ・ナイトレイは控えめな演技だが、それでもさすがに存在感が際立つ。チューリングの少年時代を演じたアレックス・ローサーという俳優の、細かく微妙に変わる顔の表情も印象に残った。

 私も暗号に惹かれた一時期があり、『暗号の天才』(R.W.クラーク著/新庄哲夫訳、新潮選書、1981)や『暗号の数理 作り方と解読の原理』(一松信、講談社ブルーバックス、1980)などという本を読んだ。

 『秘文字』という本(長田順行監修、社会思想社、1979年)もある。これは日影丈吉中井英夫泡坂妻夫の3人の、暗号をテーマにした小説をさらに暗号化したアンソロジーである。読者は暗号の解答を出版社に送り、原文の冊子を入手するという凝った趣向である。正解者には作者直筆のサイン色紙がプレゼントされるおまけつきで、私も中井英夫の作品を解読して送ったが色紙はもらえなかった。

 

2.映画『妻への家路』/張芸謀監督/2014/フォーラム八戸 ★★★★

 

 監督張芸謀チャン・イーモウ)、主演鞏俐(コン・リー)とくれば、まずは見ねばなるまい。張芸謀文化大革命をテーマにした映画をいくつも撮っているが、これはその最新作。

 文化大革命と逃亡罪の刑期を終えて20年ぶりに帰宅した夫を待っていたのは、心労で記憶障害になった妻と、父親を知らぬまま成人した娘であった。夫のことを忘れてしまった妻と父をなかなか受け容れられない娘との、葛藤と和解の日々を淡々と描いた物語。

 公安警察に追われながら妻(コン・リー)に会いに来た夫(陳道明=チェン・ダオミン)が娘の密告で捕らえられるまでの導入部分で、この物語の背景がすべて語られる。この間、約10分。すごい。映画的興奮を味わう至福の時間である。

 今月の2作はどちらも★4つ。

 

●酒肴全般

1.純米 喜一郎の酒/喜久水酒造/秋田県能代市 ★★★★

 日本酒が大好きな方からの頂きもの。華吹雪という地元産の米から作る。香りが立つ、ということばが浮かぶ。ほんの少し甘めだがすっきりしたのどごし。

 

2.大吟醸 良志久/大和川酒造/福島県喜多方市 ★★★

 醸造元見学の折に試飲して買ったもの。酒蔵のひんやりと薄暗い土間で飲んだ(氷水で冷やしてあった)ときは旨いと思ったが、持ち帰って冷蔵庫で冷やしたらやや甘さが強調された感じ。冷やし過ぎだったか。

 

【編集後記】

 通算33号です。

 ヘッダの写真は、東京駅丸の内北口コンコース、ドームの天井。クリーム色の天井の黒っぽい点々は、転落防止用の透明な床の補強用ワイヤーの影です。

 東京駅は建造物の遺構や史跡にあふれた観光スポットでもあります。東京ステーションギャラリーを出て非常用階段で降りると、まわりの壁は建設当時(大正初期)の古いレンガがそのまま遺されていたりします。コンコースにある8本の円柱にかかる白い梁も古いものをそのまま使っているようです。

 

広告を非表示にする
蝉氷坊通信メンバー  蝉氷坊 1954年生   海*堂 1954年生   高*庵 1958年生   法*斎