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蝉氷坊のブログ

 文殊会通信(読書、映画、美術、酒をめぐる片言隻句)ぶらぶらあるき(県内篇・県外篇)梵夫の時間(おりおりの日誌)

文殊会通信第26号 2014年11月1日

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海*堂  消息

 

●最近読んだ本

『葬儀と日本人 位牌の比較宗教史』/菊地章太/ちくま新書/2011.8 ★★★★

 

 ようやく読了。全然難しい本ではないのに読みかけをそのままにしてしまっていた。時間が経ったせいで始めの方は忘れてしまっているのが情けない。

 サブタイトルが「位牌の比較宗教史」となっているように、位牌の起源を巡って儒教道教の葬儀を調査し、その仏教への伝来と普及を述べ、位牌をキーワードとした葬儀の比較宗教史となっている。

 著者は、柳田國男の『先祖の話』を取り挙げて、「常民の間に行われた遺体の処理方法が検討される。あたかもその目的はすみやかに消えてしまうところにあったのではないか」と言う。遺体埋葬地はその記憶のある人がいなくなる頃には忘れ去られてしまう。時間が経てばその跡形さえなくなってしまう。それが日本人の葬りの原点ではないかと言う。三十三回忌を弔い上げと呼んで、位牌を祀ることも終了し、川に流したり、墓地に埋めたり、焼いたり、寺に納めたりする地方があると言う。これによって、故人の霊魂という個性が消失し、先祖という一体のものへ融合していくことになる。散骨も樹木葬も古代からあり、かえって石の墓石がずらりと並んでいる風景のほうの歴史が浅いという指摘はなるほどと思わされる。

 これからの葬送は今までと同じにはいかなくるというのは誰もが思うことだろう。けれどもどうすれば良いのかは誰も分からないのではないだろうか。

 

 

高*庵  消息

 

 しばらくお休みです。

 

 

蝉氷坊  消息

 

▼最近読んだ本

千年の愉楽中上健次選集(6)/中上健次小学館文庫 ★★★★

 

 直前に若松孝二監督による映画も観た(下の記事参照)。

 『岬』『枯木灘』と続けて読んで、これは文学的に愉しむという類いの小説ではない、と感想を書いたのだったがこの作品は少し違う。

 「半蔵の鳥」「六道の辻」「天狗の松」「天人五衰」「ラプラタ綺譚」「カンナカムイの翼」の6作からなる連作短篇集。中でも「天狗の松」と「天人五衰」がとくに心に残る。

 『千年の愉楽』のタイトルは、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』にインスパイアされたものだという。千年の愉楽とは神仏のみが享受できる超時間的な至福感の謂いであろう。オリュウノオバと礼如の夫婦の祈りであり、二人が歌い続ける永遠の讃美歌が通底音として響く世界である。残念ながら、映画ではそのあたりが全く伝わってこなかった。

 小説を読む愉しさを久々に味わった。

 

■アート全般

1.映画『オーシャンズ12』/スティーブン・ソダーバーグ監督/2004/WOWOW ★★★★

 

 一度観ただけではストーリーが分かりにくい作品を、深夜に眠いのを我慢しながら3回(3日)に分けて観た。ストーリーがよく分らないのに、映画的なおもしろさが詰め込まれている。

 例えば。複数の主役級の登場人物が、ストーリー展開のなかでそれぞれの役割やポジション、周囲の人物との関係などが次第に明らかになっていくのを観るのは楽しい(字幕やセリフで無理に説明しようとしないのがいい)。こういう映画を観て思うのは、仕事の上での仲間同士の親疎、距離感を描くことにかけて、ジャンルを問わず欧米はとても丁寧かつ巧みである。

 とにかくもう一度観よう。

 

2.映画『千年の愉楽』/若松孝二監督/2012/WOWOW ★

 

 主人公の男たちは次々に死んでいき、女たちは生き長らえてゆく。視点は死よりも生にあるらしい。次に登場する主人公たる美しい若者として表象される「生」こそ監督が何より撮りたいものなのだろう。しかし、その意図は成功しただろうか。

 例えば風景。入口にしめ縄を祀った洞窟のある切り立った崖や家がひしめき島が浮かぶ漁村の風景が何度も出てくる。洞窟は女性器ないし産道を、重なる瓦屋根は生(性)の反復や長い時間をそれぞれ象徴していると思われるが、まるで書き割りの風景のようで生気がない。

 原作とかけ離れた別の物語である。キャストでは高岡蒼佑がいい感じ。

 

【編集後記】

 通算26号です。

 つい先ごろ、山口淑子氏が亡くなりました。

 彼女は「満洲」に関心を持つ人たちにとってとりわけ重要な人物です。日本人でありながら、李香蘭という名で中国人女優としてデビュー、絶大な人気を誇りました。中国清朝の王族に生まれ、のちに日本人の養女となって日本人として生きた川島芳子とは好一対です。

 李香蘭時代の映画を私はひとつも観たことがありません(一部を「YouTube」などで観ることはできます)。朝日新聞の書評欄(10月26日付)の「山口淑子とは誰か」と題したコラムで、筆者(文化部記者)は女優としての彼女の評価がもっとも難しいと書いています。このコラムでは『「李香蘭」を生きて』(山口淑子日本経済新聞出版社/2004)、『李香蘭原節子』(四方田犬彦岩波現代文庫/2011)の2冊を取りあげています。後者は私も読んでいます。

 彼女は激動の昭和史を生き、文字通り波瀾万丈の生涯を送りました。今後も長く人びとの記憶に残る人物であり続けることでしょう。

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蝉氷坊通信メンバー  蝉氷坊 1954年生   海*堂 1954年生   高*庵 1958年生   法*斎