蝉氷坊のブログ

 文殊会通信(読書、映画、美術、酒をめぐる片言隻句)ぶらぶらあるき(県内篇・県外篇)梵夫の時間(おりおりの日誌)

文殊会通信 第15号 2013年12月1日

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海*堂  消息

 

 

●最近読んだ本

『日本人の叡智』/磯田道史/新潮新書/2011.4 ★★★★

 

 『武士の家計簿』で注目された著者。週一回の朝日新聞連載記事が元。古文書にとりつかれた著者が、江戸期から平成までの埋もれさせてはいけない98人の人物の深遠で優れた言葉をまとめたもの。

 「理屈と道理のへだてあり。理屈はよきものにあらず」【三浦梅園(1723~1789)】。「人間の作った理屈にとらわれない道理の探求を重視。この国の思想を大きく合理主義の方向に持って行った」と評価。

 一人物につき見開き2頁に収まっているので、寝る前の読書に最適だった。

 

▼今読みかけの本

『現代坐禅講義-只管打坐への道』/藤田一照/佼成出版社 2012.7

 

 未だに継続中。まとまったが時間なく、細切れ読書。これまでの曹洞宗の常識的な坐禅観に転換を迫ると思われる。

 

 

■これから読む(購入する)予定の本

 

 新聞等で見かけ性懲りもなくこれから注文する予定の本。

 

1.『アル中病棟ー失踪日記2』/吾妻ひでおイーストプレス

2.『若き日のブッダ』/里中満智子/中央公論新社

3.『葬式仏教正当論』/鈴木隆泰/興山舎

4.『日本仏教の医療史』/新村拓/法政大学出版局

 

【編集人から】

 吾妻ひでおの前著『失踪日記』(2005)には深い感銘を受けました。

 

~今月のお題~

●これまで買った中のトンデモ本

 

 なぜか2冊とも翻訳本。

 

1.『シャカ族』/アジャヤ・クラーンティ・シャーキャ著、井沢元彦監修、堤理華訳/徳間書店/2009.11

 

 新聞の広告で見て注文した本。帯には「お釈迦様の末裔シャーキャ族が、世界で初めて明らかにした仏教宇宙の精髄」、「仏教の知られざる源流、ネパールに息づく文化・儀礼・哲学などを概説した画期的研究書」とある。が、とんでもない。祭事や儀礼の記述が延々続いて、退屈きわまりなく途中で読むのをやめてしまった。

 井沢元彦の「序に変えて」に、釈迦はインドの人ではなくネパールで生まれ育ったことを日本人は知らないなどと、さも日本人の常識を覆そうとしているような言い方をしているが、釈迦のふるさとのカピラヴァッツは、現在でもインド領かネパール領か二説があって決着がついていないのである。さらに当時ネパールという国家が存在していたわけではない。そこはどちらにしてもインド文化圏にあったのは間違いない。

 

【編集人から】

 井沢元彦が監修というのがちょっと怪しいですね。一流の作家や学者でも「なんでこんなこと言うの(書くの)」と思うことがありますが、とくに作家の場合影響力は学者よりも大きく、その分責任もあると思うんですけどね。

 

2.『宗教とは何か』/テリー・イーグルトン著、大橋洋一+小林久美子 訳/青土社/2010.5

 

 本屋で見つけた本。『神は妄想である』のリチャード・ドーキンスらの科学主義に対する反論としてキリスト教神学の立場から書かれたもののようだが、何を言いたいのかよくわからない。当方の理解が及ばないだけかもしれない本をトンデモ本に入れるのは少々気が引けるが。ただ「すべからく」を「すべて」と同じ意味と思って使っている箇所が散見され、訳者、編集者大丈夫かと思ってしまう。

 

▼アート全般

 

 八戸市美術館で開催されていて見よう見ようと思いながら見られずいつの間にか終了していた後悔続きの展覧会の数々。

 

1.「種差scenery展」写真家北島敬三が撮った被災地三陸と八戸の人々

 8月31日(土)~9月23日(月)

 

 2.三陸復興国立公園指定記念「道―そして、希望の朝」

 9月28日(土)~11月4日(月)

 

■酒肴全般

 純米酒/たかちよ EPISODE ZERO/髙千代酒造株式会社/新潟県魚沼市 ★★★★

 

 T師より戴いた珍しい酒。試験醸造なので「 EPISODE ZERO」というサブネームがつく。「うすぐもり生原酒」とも表示。口に含むと豊かで爽やかな麹の香りが広がる。品の良い端麗などぶろくという感じでおもしろい。生原酒とあるがアルコール度数は16度できつさや過剰な甘さはなく飲みやすい。

 

 

高*庵  消息

 

(今月はお休みです)

 

 

蝉氷坊  消息

 

●最近読んだ本

原発ホワイトアウト』/若杉冽著/講談社/2013.9 ★★★

 

 現職の霞ヶ関官僚による話題のベストセラー。

 一定量を超えた放射能汚染によって立ち入りが禁止された地域ができ、除染による汚染水や表土などの廃棄物はその処分に確たる見通しはない。いくつもの「先の見えない課題」をもたらした福島の原発事故。超激甚災害にもかかわらず、今の日本は原発を無くすどころか、減らすつもりもないように見える。

 現代の人類はある種の社会構造の中で、命よりも優先すべきものを持ってしまった。しかも、命とは時に「他人の命」ではなく「自分の命」である。作者が「モンスター」と呼ぶ組織の論理である。当然、その裏には金と権力が張りついている。

 物語の前半、電力会社と原発企業と霞ヶ関、三者のとどまることがない悪が描かれる。ほとんどの国民は意のまま、反対運動はまさに蟷螂の斧の様相である。巨悪を告発すべく立ち上がった元テレビ局の女子アナと、彼女に協力した原子力組織の職員は警察とマスコミにつぶされ、原発に反対姿勢をとり続ける某県知事は、仕掛けられワナにはめられてしまう。

 最終章で、日本は再び巨大原発事故の危機に見舞われる。場所は新潟県(作中では新崎県)。原因は猛烈な寒波。そしてもうひとつ、人災。またもや、というべきか。

 自然災害対策の未整備、指揮系統の不徹底、業種・組織間の連携のまずさ。その結果は…。後手後手の対応、責任逃れ、報道統制。作者はこう書く。「悲劇は繰り返される、二度目は喜劇として」。

 さて、映画化はどうだろうか。Wikipediaの記事によると、山崎豊子の『沈まぬ太陽』の映画化(2009年/若松節朗監督)に対して日本航空は強い不快感を示し、法的措置も辞さない姿勢だったという。巨大企業、巨大組織を告発する個人の無力さは、本作が覆面作家として書かざるを得ないという事実が何よりも証明している。

 

▼今読みかけの本

1.『満洲事変』/緒方貞子岩波現代文庫/2011.8

2.『ブレードランナーの未来世紀』/町山智浩/洋泉社/2006.1

 

~今月のお題~

■これまで買った中のトンデモ本

1.偽書東日流外三郡誌」事件/斎藤光政/新人物文庫/2009.12

 

 この本自体はトンデモ本ではない。この本が取りあげた『東日流外三郡誌』という本について書く(以下『三郡誌』と略す)。

 『三郡誌』は青森県五所川原市の個人宅から「発見」された、日本の古代から中世の歴史を記した膨大な量の文書である。今では、発見者某が自筆した偽文書であることがほぼ確定している。高名な学者が本物と認定し、自治体が公式な史料として発行したことで真偽論争は一気に加熱したのであった。

 1990(平成2)年をはさむ前後10年は、真偽論争がもっとも盛んであった時期である。当時関わった町の仕事でこの論争を知り、原本(八幡書店版だったと思う)を読む機会もあった。これは明らかな偽書である。

 本書はこの論争の経緯を時系列で追ったルポである。著者は地元紙東奥日報の編集委員である。

 閑話休題。

 わたしも東北が労働や経済において搾取され、地域的・民族的に差別されてきた歴史には大いに義憤を感じる者だが、その独自性や優位性ばかりを言いつのるは気が引ける。「まほろばの里」とか「まつろわぬ民」という耳障りのよいことばに踊らされたくはない。東北は確かにすぐれた文化や自然遺産など誇るべきものを多く持っているが、大事なのはいわゆる中央や権威からのお墨付きではないはずだ。

 

2.『軍用飛行機 曹洞宗号献納者一覧表』/曹洞宗宗務院/1942.12

 

 戦時中、献納機というものがあった。地域や職能団体、業界などが製造費用を募って軍部に納めた戦闘機のことである。献納機には「愛国第十九兵庫号」とか「実業学生号」などの名前がつけられた。後者は、全国実業学校生徒職員によるものだ。

 旧仏教各派でも盛んに行われ、臨済号とか立正報国号(日蓮宗)などの名前が残っている。本書は宗門の機関誌「曹洞宗報」の別冊である。日本国内はもとより、朝鮮・台湾・樺太・満洲、ハワイや南米まで、おそらく宗門のほぼ全寺院と思われ、寺院名、金額、住職などの個人名(寺族や檀信徒の篤志者も)が記されている。

 こんな愚行を二度と繰り返さないことも、僧侶のつとめと思う。

 

●アート一般

『そして父になる』/是枝裕和監督/2013/TOHOシネマ下田 ★★★

 

 最後の最後まで感情移入できるシーンが全くなかった。両家族で行ったキャンプで、母親同士が抱擁するシーンぐらいか。考え方や家庭環境を超えた、子を思う母親としての共感ということなのだろう。ハグはやや大げさな感じはするが、現世代ならあるのかもしれない。是枝監督の映画ということで期待して観たがとても残念だ。

 子どもたちの存在感に比べれば、大人の俳優たち(の人物像)がいかにも薄っぺらに見える。それは現代人すべてに共通する「軽さ」のようなものだろう。それぞれの家庭環境や子育て論など、設定の際立った対比に違和感はないが、登場する大人たちの行動やセリフにバックボーン(生き方の哲学とか信条のようなもの)が見えない。

 違和感の一例。斎木家の仏壇に野々宮家の子・慶多がご飯を供えたあとみんなで拝むシーンがあるが、ここは斎木家の子がやるほうが観る方は納得できるのではないかしら(お行儀のよさに従う、という感じが両家が対等でない暗示に思える)。

 

▼酒肴全般

 ニッカ シードル「ロゼ」「スイート」「ドライ」/アサヒビール/青森県弘前市(工場) ★★★

 

 3種ともスパークリングワインである。アルコール度は約3~5%と低めで、さっぱりした味が案外おいしい。甘さは「スイート」「ロゼ」「ドライ」の順に弱くなる。ホームページでは「青森、弘前、リンゴ」の文字を強調していて、逆に原料が青森県産リンゴ100%ではないと言っているように思われた。

 

【編集後記】

 第15号です。

 十一月上旬の寒気が一段落し、ここまでおだやかな日が続いています。今回は高*庵さんはお休み。もともと忙しい方ですが、ここふた月ほど超というレベルだそうです。

 

 今年も残すところ、ひと月を切りました。皆さま、お体にお気をつけください。

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