蝉氷坊のブログ

 文殊会通信(読書、映画、美術、酒をめぐる片言隻句)ぶらぶらあるき(県内篇・県外篇)梵夫の時間(おりおりの日誌)

文殊会通信 第7号 2013年4月1日

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From 海*堂 

 

●最近読んだ本

『瑩山紹瑾の生涯』/百瀬明治/毎日新聞社/2002.5 ★★★★

 

 許多出版されてきた道元禅師伝に対し、一般向けに書かれた瑩山禅師の評伝は寡聞にして知らない。出版後まもなく入手したのであるが、例の如く積ん読期間が長く、ふとしたことから手にとって読み始めた。254頁と厚くなく記述も難解さがなく読みやすいが、「三代相論」とすべきを「三代争論」としてあったり、気になるところがないでもない。瑩山禅師の偉大な功績をわかりやすく一般向けに宣揚しているので★四つ。

 

▼今読みかけの本
『人間臨終図鑑』Ⅲ/山田風太郎/徳間文庫/2001.5(1987.5)

 

 ようやく2巻読了。3巻目は73歳から百代で命終した人々。

 

■アート全般

「飛騨の円空 千光寺とその周辺の足跡」/東京国立博物館 2013/1/12~4/7 ★★★

 

 だいぶ前から月末に所用で東京へ行く予定があり、新幹線の切符を取っていたが、その後東京での予定されていた時間が変更になり、時間に余裕ができたので久しぶりに上野へ。エル・グレコ展(東京都美術館)とラファエロ展(西洋美術館)と円空展(国立博物館)が開催されていた。ラファエロは6月2日まで、グレコと円空は4月7日まで。ということで、ラファエロは、無理だろうがまたの上京を期して候補からはずし、グレコか円空かの選択。土曜日なので大変な人出があり、時間も1時間程度しかないこと、自分の立場を考えて円空に決める。当日券は一般900円。安いなと思いながら本館へはいると、展示は1フロア1室のみ。円空の仏像は小型のものばかりと思いこんでいたら、2メートルほどの迫力ある不動明王像が数体あり驚いた。多くは特徴的な慈愛に満ちたシンプルな表情をして、刃物の跡が残る素朴な造形のほとけ達だが、それと共に三角の目をして牙を剥いた明王像や御法神像も少なくない。それとても怖さよりも慈愛を感じさせる姿である。場内はかなり暗くて、小さい仏像は近くに寄らないとよく見えない。下に反射板を置いて影が出ないように工夫はしているのだが、それでも見にくい。ふと思ったのは、暗くすることによるメリットは場内の人々を気にすることなく鑑賞できることかなと。

 

●酒肴全般

純米本辛口/魔斬 初孫/東北銘醸株式会社/山形県酒田市 ★★★★

 

  これと初孫の醸造酒を頂戴したのだが、はるかにこちらのほうがうまい。日本酒度はプラス8度もあり辛口には違いないが、すっきりした飲み口の中にもかすかな甘みと味わいがある。同じ辛口でも前回の春鹿とは大違い。

 

【編集人から】

 この初孫をひいきにしている知り合いがいます。本人はとにかく名前がいいんだ、と言う。家族団らんにこれほどふさわしい酒はないのだとか。結婚式で歌う歌は「孫」、夫婦別姓とんでもない、という人でもあります。無論、「初孫」の銘酒としての品質とは何の関係もない話です。

 

 

From 高*庵

 

▼最近買った本

1.『木山捷平全詩集』/講談社文芸文庫/1996.3

 こんな本、出ていたんですね。欲しかった一冊。

 たまに本屋を歩くとこんな掘り出しものが…。

 

2.『柳宗元詩選』/岩波文庫/2011.5

 こんな本、出ていたんですね。さすが岩波文庫

 玄人筋が泣いて喜ぶ稀少な本を、よくぞ出版してくれました。

 

3.『唐詩選』〈上〉/岩波文庫

 仙台の本屋で〈中〉を買い、八戸の書店で〈下〉を買い、今日本橋は丸善において〈上〉を購入。二年がかり、東日本縦断で買い求めた3冊。どこの書店でも、3冊一緒に買えます(笑)。 

 

■最近読んだ本

 『野』/1929(昭和4)刊

 『メクラとチンバ』/1931(昭和6)刊

 ★★★★★

 

 上記の『木山捷平全詩集』は、この2冊の詩集と『木山捷平詩集』と未発表詩篇の4部で成り立っています。この2冊分を読みました。

 一読唸りました。20代の頃の詩作ですが、平明な言葉でユーモアを交えながらも、その詩的完成度は並々ならぬ高さに達しているとみました。

 ともすれば、難解でなければ詩ではない的な作品も多い昨今、心に泌み入るものがあります。個人的に評価、★五つです。

 

 3月は多忙につき、本を読む時間が殆どありませんでした。前回読みかけだった円地文子の『鴉戯談』は、全10話の連作短篇ですが、8話まで読んだところで1ヶ月ストップ。

 小説類をはじめ、散文は殆ど読めなかったですね。

 

【編集人から】

*第二詩集のタイトル『メクラとチンバ』は一般的に不適切な表現とされますが、文学作品であることを尊重してそのままにしました。なお、Wikipedia木山捷平」の項には次のような記述があります。

 

 郷里の笠岡市立図書館の2階には著作などを展示したコーナーが設けられているが、年譜を記載したパネルでは第二詩集の名称は不適切用語であるとして記載されていない。また、その下にある展示でも第二詩集の題名には紙が貼られているが、全て覆われておらず、一部が見えている。

 

*「文殊会通信」を紹介したある方から、以前高*庵さんが書いていた茨木のり子の詩集「倚りかからず」の記事を見つけてうれしかった、とのレスをもらいました。

 

●アート全般

*2月から毎日セザンヌの絵を見ています。

 その最初期から、順を追って年代ごとにみています。3月は1870年代の作品。セザンヌが自己の作風を確立していく様子がうかがわれ、面白い。

 一言で言い尽くすことはできませんが、来月もこの巨大な山に挑戦です。

 

*上野の国立博物館に行ってきました。

 蝉氷坊さんも見た「円空展」をやっていましたが、高校生の娘と一緒だったため、常設展を駈け足で見て廻っただけでした。

 西洋美術館では「ラファエロ展」、都美術館では「グレコ展」と、上野のお山はルネッサンスの花盛りでした。

 24時間東京へ行ってくるだけで、仕事5件をかかえる中で、こんなに苦労しなくちゃならないのかと、溜息が出ました…。 

 

 

From 蝉氷坊

 

▼最近読んだ本

1.『一命』/滝口康彦/講談社文庫/2011.6 ★★★★

 

 前号に書いた映画『切腹』と『一命』の原作本。

 映画の原作である『異聞浪人記』ほか全6篇の短編小説集。著者については全く知らなかったが、読み応えのある小説を堪能した。

 中の一篇「高柳父子」が殊に印象深い。鍋島藩士高柳織部・外記(げき)親子の殉死をめぐる物語だ。鍋島藩士といえば高名な『葉隠』を書いた山本常朝がいる(『葉隠』は切腹や殉死を推奨、美化しているわけではない)。

 高柳織部は、寵を受けた藩主鍋島元茂の死に際して追い腹をしなかった。すでに十数名が主君に殉じていた。同僚や重臣はそのことを非難し、ついには集団で彼を襲い追い詰めて自害させてしまう。その上、織部に「不覚者」との汚名を着せる。当時まだ殉死は禁止されておらず、君臣の美風、武士の鑑と賞賛され殉死者の数を競う悪習もあった。遺族が加増や優遇を得ることも多く、陰では「商い腹」などとも言われていた。織部は忠誠の証しとしての見栄や、家名を上げるための手段に成り下がった殉死を軽蔑していたのである。

 高柳外記は、幼少時から不覚者の子と侮蔑される逆境に耐え、藩主直能(なおよし)の知遇を得て成長する。後年父の死の真相を知り、自らの死の機会をうかがっていた。

 藩主の危篤に接した外記は、枕頭で殉死を願い出、さらに父を死に追いやった重臣たちをその場で難詰する。織部の死から十年後殉死は幕府によって禁止され、違反すれば減封、国替えなどの厳罰が待っていた。実際にも宇都宮藩が処断されていたので、重臣たちは外記に殉死を思いとどまらせようとする。彼らにとって藩の存続こそが至上命題であり、外記の真情などはどうでもいいことであった。

 本文の一節から。

 …世間は時として、無知であり、愚昧であり、そしてまた軽率である。不用意に人の運命を狂わせ、暗い奈落に陥れる。高柳織部を殺したのがそれである。…

 …愚かな慣習、古い道徳を捨て去るにも、世間はしばしば、権力の裏付けを要求する。…

 

2.『夏目漱石』日本幻想文学集成第25巻/国書刊行会/1994.5
 ★★★★

 

 漱石は幻想文学作家である、と改めて思う。

 収録作は、「趣味の遺伝」「幻影の盾」「倫敦塔」「琴のそら音」「夢十夜」「カーライル博物館」「一夜」「変な音」「永日小品」「薤露行」の10篇。

 文学全集の定番のような作家の作品を片っ端から読んだ一時期がある。心に残る作品を思いつくまま挙げると、古いところで漱石「明暗」、鴎外「高瀬舟」、下って太宰「津軽」、高見順の諸作、新しくは北杜夫「楡家の人々」、遠藤周作「沈黙」などの作品が浮かぶ。

 漱石は「明暗」が一番印象深いが、ほかに「それから」「門」も心に残る。この3作は既婚者の恋愛(現代風にいえば不倫)がテーマ(の一つ)という共通点があり、高校生、大学生だった自分がどう理解していたのか怪しい限りだが、なぜか「坊っちゃん」や「三四郎」よりおもしろかった記憶がある。

 「一夜」はふしぎな短編である。旅館とおぼしき座敷で深夜、二人の男と一人の女が就寝前のひとときを過ごしている。若者でも老人でもないが、年齢は不明だ。三人の関係も明示されない。三人はそれぞれ、会話とも独白ともつかないことばをつぶやく。何ほどか語り終えると、三人はめいめい眠りに就く。小説の最後で作者が登場し、これは三人の会話ではなく人生を書いたのだ、と言って小説は終わる。登場人物は空中に描き出された3D画像のようだし、どこからか出てきた作者は言いたいことだけ言ってさっさと消えてしまう。

 作者は人生と言うが、読む方は何のことか分からないまま放り出される。大きな皿に載った飴粒のような量の料理を出されて、さあ味わいなさい、と言われるようなものか。

 

 余談。「琴のそら音」は、大学卒の勤め人とその友人の学者の会話で綴られたホラーの短編(タイトルは内田百閒風だ)。漱石ではほかの作品にもあることだが、会話はときに問う側と受ける側の内容がずれたり、前ぶれもなく別の話題に飛んだりする。このシチュエーション、欧米の映画ではよく見かける(韓国ドラマでも)が、邦画ではほとんど見た記憶がない。

 

■今読みかけの本
1.『黒澤明集成』Ⅰ/キネマ旬報社編/1989.3

 

2.『河原ノ者・非人・秀吉』/服部秀雄/山川出版社/2012.4

 

3.『大陸の花嫁』からの手紙/後藤和雄/無明舎出版/2011.8

 

●アート全般

1.『アーティスト』/ミシェル・アザナヴィシウス監督/2012 ★★★★

 

 WOWOWの録画で。

 よい音楽、よい俳優、よい脚本があれば出演者の肉声がなくても映画たり得るという証明。というより、時間がたつうちにサイレントであることを意識しないほどに引き込まれた。

 サイレントからトーキーへ、というのは進歩・進化ではなく手法の開拓、技法の開発と思える。

 

2.NHKスペシャル沢木耕太郎 推理ドキュメント 運命の一枚~”戦場”写真 最大の謎に挑む~」/2013.2 ★★★★

 

 観ようと思って見逃した番組。ネットで探したら全編(約50分)観ることができた。

 ロバート・キャパの最高傑作にして、20世紀写真史の金字塔「崩れ落ちる兵士」。この写真はこれまでずっと、「ニセもの」ではないか疑われてきた。その謎に作家沢木耕太郎が迫った番組。

 「崩れ落ちる兵士」は実戦で撮られたものではない、兵士は撃たれたのではなく従って死んでもいない、という推理がさまざまな論証から語られる。さらに、この写真はキャパが撮ったものではなかった(撮影したカメラはキャパの愛機ライカではないということも)、という衝撃の推理。

 結論から言えば、推理は恐らくすべてその通りだろう。だが、キャパの名誉や名声がこれで覆るわけではない。番組ではそれも訴えたかったのだろう。ただ、番組で時代の寵児となったが故の苦悩の人生(それはおそらく亡き恋人への想いにつながるものだろう)への言及が最後の数分で終わってしまったのは惜しまれる。

 今夜はキャパの写真集を開いてみよう。

 

■酒肴全般

純米大吟醸/蓬莱 愛山/渡辺酒造/岐阜県飛騨市 ★★★★

 

 純米酒は基本的に「うまくない」、と今でも私は思う。

 私が純米酒のうまさを知り始めたのはここ5、6年のこと。吟醸や大吟醸がより多く出回るようになり、選択肢が広がったせいだろう。ただ、じっくり何杯でも飲んでいたいと思う純米酒には残念ながら未だに出会えない。

 さて、「蓬莱 愛山」である。頂き物。

 香り爽快、うま味清白、ノドごし駿逸。すなわち、ほんのりリンゴ系の果実の香り、口に含むと少し辛みのあるすっきり味、ノドに刺激がなくするりと入る。★四つはややオマケの評価。

 

【編集後記】
 3月11日、町の有志と一緒に「東日本大震災~慰霊と希望の集い」を開催、当寺と駅前広場で法要といくつかのイベントを実施しました。吹雪模様の天気のせいか参加者は少なかったけれど、しばし祈りと誓いの「時間」(とき)を過ごしました。

 ヘッダの写真は駅前に作った雪の祭壇。

 

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蝉氷坊通信メンバー  蝉氷坊 1954年生   海*堂 1954年生   高*庵 1958年生   法*斎