蝉氷坊のブログ

 文殊会通信(読書、映画、美術、酒をめぐる片言隻句)ぶらぶらあるき(県内篇・県外篇)梵夫の時間(おりおりの日誌)

文殊会通信 第5号 2013年2月1日

f:id:senhyo-bo:20090224084713j:plain


From 海*堂

●最近読んだ本

『イエスの言葉 ケセン語訳』/山浦玄嗣/文春新書/2011.12  ★★★★

 

 ケセン語とは岩手県気仙地方のことばに対する著者山浦氏の命名。宮城県の気仙沼市ではない。山浦氏は大船渡市で医院を開業。2011年3月11日の大津波では、著者の住む町とともに医院も大きな被害を受けた。著者は、ケセン語研究家としてまた聖書のケセン語訳を行ったとして何度かマスコミにも取り上げられたことがある。ただ単に聖書の言葉を方言に移し替えるなどという奇を衒ったものではなく、難しい翻訳用語を使わずに古代ギリシャ語からわかりやすい日本語に翻訳することが目的だった。そしてこの受難の中、本当の幸せとは何かを問う福音書の心こそ灯火となると確信して書かれたのがこの本だった。

 有名な山上の垂訓の一つ、「心の貧しい人は幸いである、天の国はその人たちのものである」(マタイ福音書)というのが新共同訳聖書であるが、著者によれば「頼りなぐ、望みなぐ、心細い人ァ幸せである、神様の懐に抱がさんのァその人たちだ」となる。「心の貧しい人」こそが天国に行けるというのは解りにくいが、原語から訳すと「鼻息の弱い人」つまり、金も力も地位もなく吐息も弱々しい貧乏な、神に頼る以外の道がない人のことだという。また「さいわい」と「しあわせ」の違い、つまり「幸運」と「幸福」の違いも論じるなど、これまでの翻訳の不適切さを指摘する。

 因みにここの部分を、近年の優れた翻訳として評価の高いバルバロ神父訳を見ると「心の貧しい人は幸せである、天の国は彼らのものである」とあり、その注釈では「心の貧しい人」を「物質的にも貧しく、精神的にも金銭の富を求めない人」としている。なんだか伝統の翻訳に従いながら牽強付会の感がある。また「幸」は「しあわせ」を採用している。

 そのほか、「愛」、「義」、「祈り」、「信仰」など従来の翻訳語を原語から問い直し、わかりやすい言葉に翻訳し、それまでの格調高くはあったが親しみにくい聖書の文章を、身近なそして生きていく上での力となる言葉にしょうとしている。まるで、漢文仏典からの硬い日本語訳に対する、サンスクリット原典からの翻訳、例えば、「法句経」伝統訳に対する、中村元の「真理の言葉」のようである。

 またこの著者による聖書の解釈を読んでいると、仏典に説かれる思想との類似性に思い至ることがあるのもおしろい。

 この本は、大災害に襲われた故郷を思い、悲しむ人々に寄り添い、共にこの苦難を乗り越えんとするためにイエスの言葉をわかりやすく心に届けようとする熱い願いに溢れている。 

 

【編集人から】

 私もこの方の人物と本書を紹介した番組をテレビで見ました。

 

▼今読みかけの本
『人間臨終図鑑Ⅱ』/山田風太郎/徳間文庫/2001.4

 

 まだ終わりません。

 

■これから読む(購入する)予定の本

 読んでない本が山とあるのに、また買いたい本が出てくる。困ったものです。

 

【編集人から】

 同感です。実際、余命と余暇を考えると一生読むだけの本は手元にある気がします…。

 

●酒肴全般

純米酒/春鹿 ときめき300ml/今西清兵衛商店/奈良市 ★★ 

 

 朝日新聞土曜版Beの「売れ筋拝見」は純米酒がテーマ。その一位が、「春鹿 純米酒 超辛口」だった。以前団参で奈良に行った時、この酒屋に行ったことがある。この種類は知らなかった。早速ネットで注文。今回は一緒に注文した発泡日本酒「春鹿 ときめき」を試飲。発泡日本酒なので300mlのサイズはありがたい。アルコール度数6%なので軽い味わいだが、この麹の香りがあまり好みではないし、甘みが強いのも後味に影響する。発泡日本酒はやはり「月の桂」だ。これは6位に入っている。

 

From 高*庵

 

▼最近読んだ本

唐詩選』/深澤一幸/角川ソフィア文庫/2010.10

 

 ビギナーズ・クラシックス中国の古典

 題名は『唐詩選』となっているものの、いわゆる明の李ハン竜の『唐詩選』には非ず。清のコウトウ退士選ぶところの『唐詩三百首』(平凡社東洋文庫)から、五十一首を選んで解説を加えたもの。

 題名が誤解を生みそうで問題ありだが、唐詩のアンソロジーという意味でつけたんでしょう。

 さて、漢詩の本というのは一律に、原文、読み下し文、語句の注釈、現代語訳と必ず4つの構成になっていますが、それだけでは時代背景や作者の境遇、詩の作られた状況等がわからず、中々十全の理解が難しいものがあります。

 このビギナーズ・クラシックスは文字通り初心者向けの薄い文庫ですが、中々簡にして内容豊かといいますか、最近注目?しています。

 

『死の淵より』/高見順講談社文芸文庫/2013.10

 

 薄い文庫で1,260円は高いようですが、見つけてすぐ買いました。

 中学校の国語の教科書で作者の「おれの期待」という文章を読んだ方も多いと思います。

 ガンにおかされた「最後の文士」が遺した最後の詩集。

 全編読むにはやはり復刻されたものが必要ですね。

 

■今読みかけの本
『デスデモーナの不貞』/逢坂剛文藝春秋/1999 ★★★(読みかけですが)

 

 朝日新聞の書評欄で、哲学者の木田元さんがエラくほめていたもので10数年前に購入し、本棚でホコリをかぶっていたもの。

 本棚の未読の本を、何とかしなくちゃと余命も少なくなってきた(笑)この頃、しきりに考えます。読まないで処分するのもイヤだし、子供達は揃いも揃って文学には何の興味もないし。

 時間を作ってこつこつ読んで、古本屋さんに持って行く、というのがベストだと思い、まずは手始めに…。ちょっと、不思議な味のミステリー。

 

 柳宗元の詩など ★★★★★

 

 唐代、韓愈と並ぶ稀代の文章家、柳宗元。

 高校の漢文の教科書で「千山鳥飛ぶこと絶え…」という「江雪」と題する五言絶句を読まれた記憶があるでしょう。

 しかし、高級官僚として政変に遇い、30代前半から40代後半で没するまで、辺地に流され続けた彼の生涯を知ると、なお一層詩の理解が深まります。

 中でも「城上ノ高楼大荒ニ接ス」で始まる七言律詩はまさに絶唱。私の魂をゆり動かします。54歳になる今日までこの詩は知らなかった…。(『唐詩選』『唐詩三百首』両方に載る)

 

【編集人から】
 「城上ノ高楼…」は「登柳州城楼寄漳汀封連四州刺史」(柳州の城楼に登り漳・汀・封・連四州の刺史に寄す)と題した詩ですね。

 ネットで「城上高楼 柳宗元」と検索すると、次々に出てくる中国発のページ。日本語のページは1割もない。一方、「千山鳥飛 柳宗元」で検索するとこの割合がちょうど逆になります。これって、前者が日本では人口に膾炙していないということなんですかね。

 

●これから読む(購入する)予定の本

 残りの持ち時間が少なくなってきてるので(笑)、やはり古典精読を目指したい(と言うことだけは立派なんですが…)。

 大体、刊行後百年経ったものを目安に読みたいと思うんですが…。

 仏教なら「眼蔵」、文学なら杜甫、漱石etc…

 

▼アート全般

 最近はトンと映画も観ないんですが、蝉氷坊さんが前に書いていた鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』(1980)は学生時代映画館で観ました。今は亡き原田芳雄が強烈な個性を放っていたような…。

 当時、鈴木清順復活ということで一気にその名が高まったものでした。私も『陽炎座』(1981)や、昔の作品『けんかえれじい』(1966)なども観た記憶があります。

 さて、私、今月はラウル・デュフィの絵画を見て一ヶ月を過ごしました。ディフィはその青も美しさと、流れるような軽快な筆致で私の好きな作家の一人です。決して軽くはありません。マチスは彼が亡くなった時「彼の仕事は後世に残るだろう」と言ったといいます。

 星の数ほどいるアーティストの中で、後世に残る人はどれくらいいるのでしょう。

 

【編集人から】

 私は、1980年代の鈴木清順ブームの時でもまだ映画作品を観ようとは思わなかったなあ。当時のテレビドラマで主演して、うまくないが味のある演技を見せていたのは憶えています(調べたら、1983年NHKの「みちしるべ」というドラマでした。加藤治子が妻を演じ、退職した教師夫婦がワゴン車で日本中を旅する、いわゆるロード・ムービーですね)。

 

■酒肴全般

 冷え性の私は一昨年以来、冬場は芋酎のお湯割が好みだったのですが、最近はまた日本酒の燗酒を飲み始めています。

 小鹿田焼(おんたやき、大分県日田市の焼物。柳宗悦が「日田の皿山」という著作で世に広めた)の小ぶりな徳利に酒をついで湯燗をします。ぐい呑みはその日の気分で。小ぶりな徳利には、小ぶりな唐津なんかがいいですね。

 我が五戸町の「如空」の銀撰を燗にします。温めるとやや甘口で燗に合うように思ってます。ただ、冷やで飲んだ場合、私はどうもしっくりきません。もう少しさっぱりした感じが好きなので。

「如空・銀撰」/八戸酒類五戸工場 燗酒にした場合 ★★★★

 もっとも、金撰や佳撰などと燗の飲み比べをしたわけではありませんので、かなりいい加減な評価です。

 

From 蝉氷坊

 

●最近読んだ本

中島敦』日本幻想文学集成第9巻/国書刊行会/1991.12
★★★

 

 高校で習った「山月記」を始め、「名人伝」「牛人」「弟子」「李陵」「文字禍」は再読。収録作品はほかに「狐憑」「木乃伊」「悟浄出世」「悟浄歎異」「盈虚」「幸福」「遍歴」の計十三篇。

 「山月記」を初めて読んだときはとても怖かった。擬古調の文章は美しいが、作品を好きになれなかった。単なる動物変異譚ではない、人間として在ることが徐々に失われていく恐怖を語る主人公李徴のことばに凄みがある。目覚めたら天井が徐々に下がってくるのに気づくが金縛りになって身動きできないという夢の話があるが、自己存在の喪失感覚を自覚しながら止め得ないというのはそんな感じか。読み返してみて、今回も恐怖感だけが残った。

 新潮社のカセット文庫で「山月記」を持っている。朗読は俳優の江守徹。この人の声をあまり好きになれないのも、この作品に対する嫌悪のせいか。ちなみに、私は「名人伝」が一番好きだが、今回初めて読んだ中では「悟浄出世」がいい。

 

▼今読みかけの本
『シネマ厨房の鍵貸します』/川勝里美・吉本直子編 映像文化センター制作/日本ヴォーグ社/1996.7

 

 映画に出てくる料理と酒の本です。

 「映画に出てくる○○」とか「映画で読み解く○○」のような読み物が好きです。雑誌や新聞でこうした題材が連載されていると、単行本になるかどうかが気になる。中身をよく確かめずに買ってしまうのもこの手の本です。

 

■この一冊

『歴史人口学の世界』/速水融/岩波書店/1997 ★★★★

 

 著者は日本における歴史人口学の第一人者。歴史人口学とは、近代的な国勢調査が始まる以前の人口を研究する学問である。

 近代以前の人口を推計する手がかりは、おもに古文書、史書、木簡・竹簡などの文字史料・資料、遺跡やその出土品など。江戸時代では享保年間(18世紀前半)以降、不完全ながら幕府による人口調査が全国的に行われているが、最も基礎となるのは宗門人別改帳である。さらに、系図や寺院過去帳も重要な史料になる。

 宗門人別改帳の分析によってかなり精度の高い人口数が算出できるが、本書ではその整理法や計算方法を紹介している。多世代にわたる人口の解明によって人口動態や生活レベル・家族構成の変遷などがうかがい知れ、地方史や文化人類学の分野に資する部分も大きい。同じ著者による『江戸の農民生活史』(NHKブックス/1988)では濃尾平野の西条村(現岐阜県安八町中村)の、江戸時代中期の約1世紀にわたる人口の変遷をもとに、江戸期の農民生活を多角的に紹介している。

 

●アート全般

 飛騨の円空~千光寺とその周辺の足跡~展/東京国立博物館 ★★

 

 白隠展~禅画に込めたメッセージ~/Bunkamuraミュージアム ★★★

 

 上京の機会があり、展覧会を二つハシゴして観た。

 「円空展」は東京国立博物館140周年特別展のひとつ。「書聖王羲之展」がこれに続く。凝った展示演出は、円空仏の大きさや形の多様性を浮き立たせる工夫、簡潔な文で数も少なめの説明板は、文字より目で見て感じてほしいという意図と察せられた。円空仏の真骨頂は力強さ(一種の魔力)にあると思うが、展示ではアーティスト円空といった偏重を感じた。ポスターにも使われた「両面宿儺(すくな)坐像」の精緻さよりも、「護法神立像」や「金剛神立像」などの荒々しさがいい。展示作品は100点におよぶが会場が狭く、観客も多くてじっくり観るには窮屈すぎる。東博ならもっと広いスペースも取れたのでは、と思われた。会場の出口付近に来たら、若い女性の「エー、もう終わりー」という声が聞こえた。

 「白隠展」は、一万点ともいわれる白隠の作品の中から大作を中心にした約100点を展示。会場は書画の展示にしてはかなり明るい。明るいと少し離れた位置からも見えるので観客の流れがよい。山下裕二氏(本展の監修者のひとり)のユーモアを交えた解説文が楽しい。白隠への愛情が伝わってくるようだ。

 前回高*庵さんが触れていた「大燈国師像」を観たい、とはやる気持ちを抑えながら順路にしたがって進む。釈迦、達磨、観音と画題も画調もバラエティに富む。達磨図では、余裕綽々の晩年より不安げな表情の初期の絵を面白く見た。そしていよいよ「大燈国師」の前に立つ。ムー、と唸るほかない。表情も凄いが、手や足のバランスのゆがみも尋常ではない。大燈国師への強烈な思い入れのせいとみたい。

 白隠展では、初めて音声ガイドというものを試してみた。内容は会場の解説文とほぼ同じで、ナレーションは山下氏と俳優の井浦新氏。解説文を聴きながら作品をじっくり鑑賞できるのはいいが、器械を持ってヘッドホンを着けた姿は大げさな感じがしないでもない。

 

▼この一作

『化身』/森一生監督/1962 ★★★

 

 WOWOWの録画で。

 僧侶が主人公の映画はどのぐらいあるだろうか。『ファンシィダンス』(1989年だからもう24年前!)、『天平の甍』(1980年)、『金閣寺』(1976)などがすぐ思い浮かぶ。水上勉原作の一連の映画(『雁の寺』など)もある。最近では玄侑宗久原作の『アブラクサスの祭』(2010)か。

 原作は今東光、一種のピカレスク・ロマンである(今の原作による坊さん映画は多いらしい)。勝新太郎が演じる主人公・梵仙は尼僧、芸妓、女子学生と関係を持ち、やくざと渡り合う破戒僧である。最後は芸妓のひとりをパトロンの束縛から救い出し、女たちとの縁を絶って旅に出る、というストーリーは、小林旭の渡り鳥シリーズと同工異曲。

 勝新太郎という俳優、私は嫌いではない。彼が演じる梵仙和尚は男前だし、実にかっこいい。本物の生臭坊主に見えるのである。頭を剃って衣をまとえば、たいていの俳優ならそれなりになるだろう。でも、そこから先はどうか。現代の俳優でいえば、本木雅弘(『ファンシィダンス』)も中村勘太郎(『禅 ZEN』)も確かに坊さんに見えるけれど、修行僧としての苦悩(本木)や求法への情熱(中村)は残念ながら伝わってこない。役づくりの違いというより、キャリアと人生経験の内面化の違いではないかと思う。時代が違うといえばそれまでだけど。

 

■酒肴全般

駒泉 真心/株式会社盛田庄兵衛/七戸町 ★★★★


 ここひと月特別なお酒を飲んでいない、と気づいた。ほとんどビールの毎日。で、手元に「真心」白ラベルがあったので久々に1合をグッと飲んだら旨い。飲み慣れているのに、いつ飲んでも旨いのも名酒と呼んでいいのでは。

 

Chianti Don Angelo/イタリア ★★★

 

 ジャスコ下田店のKALDIにて。以前この欄に書いたのは赤。試しに白を買って飲んでみたらこれも旨いのです。値段も1000円ちょっと。CP抜群です。

 

【編集後記】
 文殊会通信第5号ができました。ちょっとは軌道に乗ってきた感があります。
 ヘッダの写真は当寺の境内墓地のスナップ(2009年2月)。今年も写真と同じくらいの量です。去年の今日(2月1日)は、例の大雪だった日です。むつはまなすラインの通行止めが全国ニュースで流れました。ここ10日ばかり雪が降っていないので、腰痛の身にはありがたい。このまま春が来るとは思わないけれど、雪が積もらない朝はやはりホッとします。

広告を非表示にする
蝉氷坊通信メンバー  蝉氷坊 1954年生   海*堂 1954年生   高*庵 1958年生   法*斎