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蝉氷坊のブログ

 文殊会通信(読書、映画、美術、酒をめぐる片言隻句)ぶらぶらあるき(県内篇・県外篇)梵夫の時間(おりおりの日誌)

文殊会通信 第4号2013年1月1日

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From 海*堂

 

●最近読んだ本

密教とはなにか』/松長有慶/中公文庫/1993.12(1984.3 人文書院刊) ★★★

同著者の『密教』/岩波新書/1991.7 ★★★

 

 1984年は、弘法大師・空海の入定千百五十年の遠忌があった年で、密教ブームが起こった年。その機に出版された前書は、複雑で難しいとされる密教を、実にわかりやすく解説した初心者向け入門書。特に密教の特徴を五つに分け、神秘主義、総合性、象徴性、救済、現実重視として、それらすべてを兼ね備えていることこそが密教であるというところが著者の炯眼。この本は、著者の講演に基づくものなので、統一性に欠けるのは仕方のないところ。

 後書は前書に対して、新書の性格どおりある程度のレベルを保持した入門書。現在、密教が生きた宗教として存在しているのは、日本とチベット周辺地域だけ。そのため学術調査隊としてチベットを調査し、特に曼荼羅をはじめとし密教研究に大きな成果をもたらした。密教の歴史、思想、実践、曼荼羅、社会性について専門性を交えて解説している。曼荼羅の解説では、諸尊の交替や、位置の違いなどが文章だけではわかりにくいので、★一つマイナス。著者によれば、「時間と空間を超越した宇宙のひろがりと、有限の人間、それらがどのようにかかわり合うのか、それを体験の中で教えてくれるのが密教だといってよい。密教が一般にわかりにくいといわれるのも、人間が理性の守備範囲を超えた領域を、認識の対象とするからだともいえる」。まさに空海のスケールの大きさは、密教によってこそ作られたのであろう。

 密教は、その修行方法の一つに観法という瞑想法を持っている。それは、大宇宙と個人が一如となること-古代インド以来の梵我一如の伝統的思考方法を継承している-を目指すのであるが、非俗の世界での修練と共に、さらに世俗の世界での救済に向かっていく。このような、瞑想→非俗の世界→世俗の世界という密教の構造は、禅の思想にも通じるところがあり-もちろん瞑想による梵我一如的方向とは違うものの-十牛図に描かれるように坐禅修行の後の「入てん(漢字が出てこない)垂手」の世界を連想したが、考えてみるともともと大乗仏教は自利利他、上求菩提下化衆生を目指したものであり、いずれもその流れの中にあることは当然のことにすぎなかった。

 

 

▼今読みかけの本
『人間臨終図鑑Ⅱ』/山田風太郎/徳間文庫/2001.4

 

 寝る前の相変わらずの睡眠薬、第二巻。五十八歳で死んだ人々、シーザー、杜甫菅原道真マキャベリ尾形光琳岩倉具視種田山頭火高見順等々。全体的に、昭和初期までの死因として直接間接に結核が挙げられることのなんと多いこと。

 

■これから読む(購入する)予定の本

 単行本はありすぎて未定。気が向いてどれを手にするかはその時次第。

 最近買ったムック、雑誌。

 『ダライ・ラマ法王と日本人』/徳間書店/2012.12

 『芸術新潮 よみがえるスーパー禅僧白隠』/新潮社/2013.1

 

【編集人から】
 『芸術新潮』、高*庵さんの購入図書にもありましたね。今回の白隠展の監修者の一人、山下裕二氏は美術関連のテレビ番組で何度かお見かけしました。仏教美術にも造詣が深く、独特の語り口のユニークな美術評論家ですね。雪村や蕭白ら、美術史の主流からちょっと外れた画僧、画家の再評価にも力を入れている方のようです。

 

●この一作

 ポール・デルヴォー展/東京国立近代美術館/1975 ★★★★★

 

 調べてみたら1975年だった。東京の友人の所へ5月の連休に遊びに行った時、その画家のこともわからず美術館へ行き、初めて見て虜になってしまった。神秘と静寂と憂愁、そして凍てついたようなエロチシズムを秘めたこの世を離れた世界。当時は画集も出版されてなくて、学生身分で金もなく、図録を買わずに後悔した。ルネ・マグリットと双璧をなす、ベルギーのシュールレアリストだが、数年後研究室に来たベルギー人の留学生はマグリットは知っていたが、デルヴォーはその名前さえ知らなかった。

 

▼酒肴全般

 大吟醸/一ノ蔵 玄昌/株式会社 一ノ蔵/宮城県大崎市 ★★★★

 

 頂戴物。大吟醸に一般的なフルーティな吟醸香は薄いため、香りに飽きず、ほのかな香りを探しながら味わう。日本酒度+3~+5とけっこう辛口のため、シャープな飲み口。

 

From 高*庵

 

●最近読んだ本
『清貧の思想』/中野孝次草思社/1992.9 ★★★★

 

 拾い読みですが…毎日パラパラと気ままにページをめくっています。

 西行、光悦、良寛、芭蕉など我が国の先人たちの生き方に学ぶ人生の有り様。中野孝次さんのエッセイは、かつて良く読んだものですが、ベストセラーになったこの書が刊行されて、もう20年になるとは驚きました。

 月日のたつのは早いものです…。

 

▼今読みかけの本
 今月は、まとまった本は何一つ読みませんでした。後は唐詩の拾い読みくらい。

 最近購入した本
 1.『唐詩選』(中)/岩波文庫

  文庫本で上中下の三冊本を、バラバラに買い足していく私もスゴイ?

 2.別冊『太陽』「与謝蕪村」

 3.別冊『太陽』「白隠

 以上、今月はこの3冊ですが、30数年講読している『芸術新潮』も1月号は「白隠」の特集です。

 何故今、白隠かというと、渋谷の「Bunkamuraザ・ミュージアム」で、12月22日~2月24日の期間「白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ」が開催中です。

 私は白隠の書画の本をかなり持っていますが、その実物は数えるほどしか見たことがありません。ルノアールやセザンヌの実物は何十何百と見ているのに、時刻の白隠にお目にかかる機会がなかったとは…。

 時間を作って渋谷にGO!と考えている年末のこのごろです。

 

■これから読む(購入する)予定の本
 先日、朝日の読書欄を見ていたら吉川幸次郎の『杜甫詩注』が刊行されるという広告を発見!

 吉川博士の『杜甫詩注』はその名を聞いていたものの、インターネットのできない私はその規模さえ皆目見当もつきませんでした。

 吉川博士の「私は杜甫を読むためにこの世に生まれてきた」ということばを書評で読んで、私も杜甫を少しずつ読むようになりました(ここ数年)。

 しかし、『杜甫詩注』は全20巻の予定が、吉川博士急逝で4巻で途絶していたものらしいです。今刊行されるその本は一冊なんと10,500円。第一期十巻だけで10万超えかぁ…そんなに高価な本を買っても、ちゃんと読むかなぁ…と、杜甫を読むために生まれてきていない私は悩んでおります。

 

●アート全般

 今月は毎日マティスの絵を眺めていました。アンリ・マティス(1869~1954)、言わずとしれたピカソと並ぶ20世紀絵画の改革者。しかし、どうも私はマティスがしっくりこない。どうも今ひとつわからない。40年マティスを眺めているのに。

 今月は1912年までの作品を一通り見て、それ以降の作品は次回に…。

 

▼この一作

白隠慧鶴『乞食大燈像』/永青文庫蔵 ★★★★★

 

 白隠ついでにこの一作。白隠画の傑作はあまたあれども、ド迫力ではこの画の右に出るものなし。

 永青文庫には同じ画題の笠とコモをかぶっている画もあるが、笠をかぶっていない方の奴。

 乞食の群れにまじって聖胎長養していた宗峰妙超が後醍醐天皇の命で召し出された故事を描いたものだが、まるで地獄から立ち現れたような宗峰の姿は悪鬼の形相である。

 何故、聖者がかくもマガマガしい姿に描かれなければならなかったのか? 白隠の内面の秘密がここに隠されているような気もする。

 

【編集人から】
 白隠禅師のユニークさは禅僧であることによるのでしょうね。浄土真宗や日蓮宗の坊さんの書画に、こんな風なものはないような気がします。江戸時代中期まで、禅宗には形式を突き抜けた自由さが認められ(さらには求められ)ていたのに対し、浄土系や他宗派では融通性が逆に形式化を促すようなところがあったのじゃないか。狭い見聞での単なる印象ですが。

 絵画論的には一種のデフォルメでしょうが、白隠にとっての書画は吐き出す一字関の如きものではないか、と私は思います。

 

■酒肴全般

 芋焼酎のお湯割を毎晩飲んでいます。今月は、

「小鶴」  鹿児島県日置市   少し個性的な味

「伊佐錦」  〃  伊佐市   甘みを強く感じる

「古秘」   〃  出水市   普通においしい

さつま白波」〃  枕崎市    〃

などを飲みました。芋チューなんて、どれも同じかと思っていたら、やはりそれぞれ味や香りや甘みが違いますね。

 鹿児島県に貢献しています。

 

From 蝉氷坊

 

●最近読んだ本

『それでも日本人は「戦争」を選んだ』/加藤陽子朝日出版社/2009.7
★★★★★

 

 太平洋戦争に関わる回顧録や自伝の中で、敗戦直後の虚脱感や解放感に触れた文章は多い。学校教師の偏向や軍隊での上官の横暴を告発した文章も多い。そうした類いの文章の背後にあるのは、戦争という状況が生み出す熱狂や狂躁、強制や統制に対する嫌悪感であろう。それらはしかし、権力を持つ側にいる者たちだけが作りだしたものだろうか。蓄財や生活物資を制限され、思想や将来の夢までも取り上げられた国民はただ従属を強いられただけだろうか。

 日露戦争の賠償への不満から起きた日比谷焼打事件は世論の圧倒的な支持を得、日本は世界の一等国、アジアの盟主であるとの認識は多くの国民が共有するところとなる。やがて勃発した盧溝橋事件に端を発した日中戦争を、軍部や政府は戦争とは観ず相手の不法行為に対する懲らしめ(「報償」)であり、「討匪戦」であるとした。つまり戦争ではない、との認識だから当然宣戦布告もない。かくて太平洋戦争敗戦にいたるまでの約半世紀、日本という国は官軍民あげてアジア各地への侵略を自明の聖戦としていた。

 中高生への歴史授業として書かれた本書は、小林秀雄賞、「最高に面白い本大賞」2部門第一位になったベストセラー。近代日本の戦争観に、現代でいえば9.11同時多発テロ、過去なら大阪の夏の陣などとの共通性を読み取るところなど、歴史の面白さとある種の怖さを教えてくれる。自分が高校生でこんな本に出会っていたらその後の生き方が相当に違っていただろう。

 ぜひ、お勧めしたい本です。

 

▼今読みかけの本
『伝光録』/瑩山禅師/横関了胤校訂/岩波文庫/1992.9

 

 横関老師の『伝光録詳解』という本を僧堂時代、役寮に借りてコピーしたものを持っている(1940年、仏教社刊)。古書では2万円以上する高価な本である。この文庫本も絶版で古書で入手したが、価格が定価の倍ということはそれなりに需要があるのだろう。文庫本の古書を定価以上の価格で買うのには抵抗がある。まして仏教書においておや。

 

■これから読む(購入する)予定の本

『笑う親鸞―楽しい念仏、歌う説教』/伊東乾/河出書房新社/2012.5

 

●この一冊

「補陀洛渡海記」(講談社文芸文庫所収)/井上靖 1961 ★★★★

 

 今回は一冊ではなく、「補陀洛渡海記」という小説について。僧侶として軽々に見過ごせない作品のひとつなので。

 死ぬ覚悟ができたという人は、いよいよ死が目前になったときも泰然としていれるのだろうか。明晰な頭脳で了解していても、その時になって無様な醜態をさらすかもしれない。本能的な死の恐怖がその覚悟を裏切ることだってあるかもしれない。

 補陀洛渡海とは、行者の体を小舟に固定し大海に流して往生を遂げさせる捨身行である。この小説の主人公は死の覚悟を外部に対してすでに表明し、そのための修行を長年積んできた住職である。周囲の期待もあり、伝統や先人に対する責任もある。いまさら後には引けない。しかし、渡海の日が近づくにつれ、主人公には死の恐怖とともに行への疑念が生じていく。恐ろしい話である。

 僧堂時代に関連して思い出すことがある。雑談の中で先輩雲水から聞いた話である。真偽のほどは分からない。本山貫首も務めた某禅師は死の間際、病院のベッドで「わしゃ死にたくないんじゃ」と叫んだというのである。僧堂の広間にはその禅師の書が掛けられていたことも思い出す。この話は、私をなぜか厳粛な気分にさせる。

 

▼アート全般

『本陣殺人事件』/高林陽一監督/1975 ★★★

 

 2~3時間の映画を観る時間がなかなかできない。テレビでもいいが、ホントは月に一度くらい映画館で観たい。その感覚は空腹やのどの渇きに近い。

 過去に観た映画から、今回は『本陣殺人事件』。

 今は観客がほとんどいない映画を観ることが多い。平日の地方の映画館なら珍しくない。けれども70年代、場末とはいえない東京の二番館ではどうだったろう。この時は4、5人もいたろうか。内容よりも、観客の少なかったことで忘れられない映画だ。

 原作はいわゆる密室殺人ものの推理小説。琴糸と水車を使ったトリックは、現実味に欠けるが映像では美しかった。オープニングのタイトルバック、本陣一柳家の大きな屋根を俯瞰で捉えた冒頭の暗いシーンが美しく、印象深い。出演者では、高沢順子がたどたどしく演じていた旧家の薄幸な少女がなかなか良かった(当時デビュー3年目で売れ始めた頃)。

 

▼この一作

『按摩と女』/清水宏監督/1938 ★★★★

 

 1930~50年代のモノクロ映画を楽しんで観るようになったのは最近のことだ。テレビで著名な監督や映画の企画ものを観ても、洋の東西を問わずほとんどの映画が以前は退屈だった。はっきり意識して面白いと感じたのは、草彅剛主演の『山のあなた~徳一の恋~』(石井克人監督、2008)のオリジナル版『按摩と女』を観たときではないかと思う。石井版は男女の恋情に重点が置かれているが、清水版はそれを含めた人生全体への愛着が全編にあふれていている。美しさよりははかなさ、そのはかなさも無常ではなく愛しさである。ついでに言えば、『山のあなた~徳一の恋~』の草彅剛も悪くない(★★★)。

 今日は清水監督の『有りがとうさん』(1936)を観る(★★★★)。これもいい映画です。観るのは三度目。

 

■酒肴全般

さつま無双 白原酒/三和酒造/鹿児島市 ★★★★


 前回「この一本」に書いたので取り寄せてみた。やはり味の記憶は間違いなかった。とてもおいしい。仲間に紹介がてらふるまったら、一回りしないうちになくなった。一緒に買った同じ酒蔵の「天無双」はたいしたことなく、ちょっと落胆。

 

【編集後記】
 謹賀新年。文殊会通信第4号です。今回も発行が少し遅れましたこと、お二人にお詫びします。
 ヘッダの写真は群馬県高崎市にある少林寺(曹洞宗)です。通称ダルマ寺、選挙で役目を終えたダルマなどを納める寺として有名です。境内には庚申塚や十三夜塔の石碑が集められた一角があり、私にはダルマよりこちらの方が興味深かった。映画『千と千尋の神隠し』にも似たような場所が出てくる。

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蝉氷坊通信メンバー  蝉氷坊 1954年生   海*堂 1954年生   高*庵 1958年生   法*斎